2013年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月13日(月)
A会場 10:30-17:45

Y系コイル化技術(1) 1A-a01-06 座長 淡路 智

希土類系高温超伝導REBa2Cu3O7 (RE123, REは希土類)テープを用いたコイル化技術に関する講演6件行われた。そのうち1件は、今回から導入された「国際道場破り」企画の
審査のため、予稿・発表・質疑応答が英語で実施された。当初、剥離の問題で含浸コイルの作製が困難とされていたが、最近ではそれぞれの研究グループが独自の手法による
コイル化ができるようになり、今回のセッションではコイルの高性能下に主眼を置いた発表が多かったように感じた。各講演の内容を以下に概説する。
柳沢ら(理研)は,極薄のポリイミッド絶縁皮膜を電着技術の最適化により作製し、その効果について報告した。皮膜の厚みは、線材の平面部分で約4 μmであるが,端部では
8 μmと倍の厚みとなった。このとき耐圧は0.3-0.45 kVと一般的な絶縁皮膜の約半分となり、ピンホールが原因とのことである。一方で、コイル巻線の占有率は90%まで向上できる
とのことである。
横山ら(三菱電機)は、ポリイミッド系よりも安価なポリプロピレン絶縁したY123テープを用いてコイルを作製した。本コイルでは、巻き枠にアルミを用いたエポキシ含浸とすることで、
線材とアルミの熱収縮率の違いによりテープに剥離力をかけて、コイルの劣化特性を調べた。その結果,ポリプロピレンの2重巻き絶縁を施したコイルでは,77 Kまでの冷却での
劣化は見られなかった。このときの最大剥離応力は約90 MPaである。最終的に内径90 mmの78ターンコイルを液体ヘリウム温度で試験した結果、液体ヘリウム冷却下バックアップ
7 T中で最大磁場9.3 T(通電電流225 A)の通電に成功した。
柳沢ら(理研)は、金属系超伝導コイルと高温超伝導コイルを用いたNMR用マグネット開発の現状についてまとめた報告であった。NMRでは高い空間・時間均一性が求められる
が、高精度電源によるドライブモードと磁性体シムを用いることで、2次元のNMRスペクトルを得ることに成功したと報告した。
宮崎ら(東芝)は、輻射シールドのない1段冷凍機を用いたY123マグネットを開発しているが、今回はコイルと冷凍機間の熱抵抗を大きくして冷凍機が停止しても磁場をある程度
保持できる仕組みについて報告した。結果として、20 Kで250 Aの運転に対し、冷凍機が停止してから負荷率94%となる40 Kまで約37分の保持時間を実現することができたとした。
岩井ら(東芝)は、12 mm幅のY123テープ線材を用いた伝導冷却マグネットの磁場中通電特性について報告した。通常Y123コイルは,自己磁場のテープ面垂直成分によりコイル
Icが制限されるが、幅広導体を用いることでその制限が緩和される。実際、4 mm幅テープのパンケーキ12積層と比べて12 mm幅テープの4積層ではコイルIcが約1.3倍となること
が分かった。最終的にバックアップ磁場5 T,10 Kで、最大796 Aの通電に成功した。このとき、最大経験磁場は10.8 Tとなり,誘起されるフープ応力は189 MPaとなった。
高山ら(東芝)は、Y123線材を用いた加速器ビーム輸送用鞍型コイル(長径約400 mm,100 mm径の屈曲部)を、劣化無く作製することに成功したと報告した。


Y系コイル 1A-p01-03 座長 渡辺 和雄

初日午後のY系コイルセッションでは、3件の発表があった。
東北大学の清野らは、GdBCO線材の機械的接合における基礎特性の評価を行っている。今回は、接合部での抵抗が温度と磁場でどのように変化するかを測定して、2次元の
電流分布解析を試みた。接触抵抗の評価にまだ課題が残されているとの報告であった。
他の2件は、東京大学、核融合研、総研大、富士電機、九州大学の共同研究でトーラスプラズマ実験装置Mini-RT用のReBCOコイルの研究についてである。東京大学の小川の
発表では、Bi2223コイルを用いてプラズマ実験に使用してきたが、10年ほどの研究でコイルの特性劣化が顕在化したため、ReBCOコイルで置き換える設計と製作を行って、
永久電流モードでの実験結果を報告した。PCSもReBCOで作製して永久電流モードでの電流減衰を調べている。ReBCOコイルの接続部は超伝導接続になっていないため、
そこでの抵抗値で決まる減衰時定数となっているとの報告であった。核融合研の夏目の発表は、国際交流若手賞応募の発表であるため、英語での口頭発表であった。PCSへの
パワー投入と温度上昇、コイルの永久電流モード特性についての実験結果を説明した。質疑では、永久電流モードとコイル励磁モードでの冷凍機に対する熱負荷の相違について
の議論があったが、補足説明がなされていた。


HTSコイル 1A-p04-07 座長 宮崎 寛史

1A-p04:西島(NIMS) Bi-2223コイルのバックアップ磁場中での通電試験について報告があった。BJR換算で180 MPa程度電磁力を加えても劣化しない結果が示された。また、磁場中
での通電試験では、コイル電圧測定時にノイズの影響が大きくなってしまうが、ノイズキャンセルコイルを組み込むことで、0.1 μV/cmの電界レベルまで測定できる実験結果が示された。
1A-p05:植田(阪大) テープ線材の問題である遮へい電流の影響により発生する磁場を電磁場解析により求め、実験結果と比較した結果について報告があった。実験結果とほぼ
定量的に一致していたが、一部わずかながらずれている箇所については、冷却による変形、巻線精度などの影響が考えられるということである。また、計算時間に関しては、実機相当の
コイルにおいても1日程度で計算できるということであった。
1A-p06:中田(早稲田大) 2GJ-SMESに使用されるY系線材の安定化層の厚さをどの程度にすればよいかについて報告があった。検出時間や検出温度などをパラメータとして必要な
安定化層の厚さを決定したということである。
1A-p07:樋渡(鹿児島大) ポインチングペクトル法を用いてコイルの異常を検出する方法について報告があった。今回は、漏れ磁場が小さい変圧器を想定して実験を行い、異常を検出
することができたということである。


5月13日(月)
B会場 10:30-18:00

交流損失 1B-a01-06 座長 東川 甲平

1B-a01:平山(鹿児島大)らは、積層導体で巻線された高温超伝導コイルの交流横磁界下における交流損失測定について報告した。液体窒素蒸発法による測定結果を示し、数値
解析との比較を行った上で、定量評価を行えていることを示した。また、特に結合損失の評価に成功しており、積層導体とコイル両端の接続部で形成される閉ループのインダク
タンスと接続部の抵抗から見積もられることを確認した。
1B-a02:古川(鹿児島大)らは、交流斜め磁界と交流輸送電流の同時掃引時におけるソレノイドコイル形状に巻線されたHTS線材の交流損失特性について報告した。ポインチング
ベクトル法によって計測した結果は、高磁界振幅領域では磁化損失の理論値と一致し、低磁界振幅領域では通電による損失の影響を表現できており、本手法の妥当性が示された。
1B-a03:樋口(鹿児島大)らも、引き続いて、ポインチングベクトル法を用いた高温超伝導コイルの交流損失特性について報告した。特に、周辺の導電体を含んだ全損失ではなく、
巻線部のみ、また巻線部の一部のみの損失評価が行える点を本手法の特長として主張した。実際に、コイル中に銅製のバルクを挿入したセットアップを例に、四端子法による評価
結果は同バルクの渦電流損を含む一方、本手法ではコイル巻線部のみの損失評価が行えていることを示した。
1B-a04:米田(京大)らは、高温超伝導Roebelケーブルの磁化損失の実験結果について報告した。外部磁界の印加角度依存性については、導体幅広面の磁界成分のみを考慮すれば
良いことを明かとした。また、素線数の違いによって、若干損失特性が異なることを示し、磁界領域に分けて詳細な考察が行われた。
1B-a05:雨宮(京大)らは、高温超伝導Roebelケーブルを対象とし、磁化損失のみではなく通電損失も含めて本ケーブルの交流損失特性について系統的にまとめた結果を報告した。
詳細な知見は予稿によくまとめられているが、その損失は、転移せずに同等の素線数をスタックした並列導体に均一な電流を通電した場合と同等であり、これはRoebelケーブルの転移
による均流化の有効性を示すものである。一方、低磁界振幅側では、上記で説明できない点もあり、これが本ケーブルの3次元構造に由来する現象ではないかと指摘した。いずれに
しても、全ての条件において、数値解析は定量的に測定結果を表現できており、機器設計のための強力な評価ツールになると考えられる。また、素線間の絶縁、縦磁界成分の影響、
ケーブルの作製法など、一際活発な質疑応答が行われた。
1B-a06:中出(東北大)らは、高温超伝導線材の非対称ひずみ波電流に対する交流通電損失特性について報告した。インバータによって通電電流が理想的な正弦波にならない場合が
あるため、その影響を定量評価するものである。電流波形を観測し、基本波によるメージャーループのみならず、波形ひずみによるマイナーループによる損失を加算することで、
測定結果を定量的に説明できることを明らかとした。簡単のためFFT等による電流波形の周波数解析から評価できないかという質問もあったが、残念ながらそれでは定量表現は
できなかったということであった。また、想定している電流波形が、実際のインバータ出力とは振幅と周波数成分の観点から乖離しているのではないかという指摘もあった。


直流送電ケーブル 1B-p01-03 座長 王 旭東
1B-p01 富田(鉄道総研):電気鉄道のき電線への応用を想定した、30 m直流超電導ケーブルの評価結果が報告された。プロトタイプとして作成した30 m長直流超電導ケーブルの
試験評価に加えて、導入メリットや対向流循環方式による冷却方法の検討が行われた。質疑では、冷却システムの能力や方式の妥当性について議論が行われた。
1B-p02 吉富(九工大):直流送電を想定した超電導ケーブルの交直変換による交流損失の解析評価が報告された。6相、12相、24相の整流パターンについて、Beanモデルによる
損失評価が行われ、6相でも250 μW/m未満という結果となった。質疑では、最適化に関する議論がなされた。
1B-p03 孫(中部大):直流送電を想定した超電導ケーブルの線材配置構造と臨界電流特性の実験評価が報告された。ケーブル各層の線材間ギャップをパラメータとして、テープ線材
を交互に重ねて磁場の垂直成分を少なくすることで、ケーブルとしての臨界電流が向上することが発表された。ギャップの最適化や臨界電流の向上原理に関する質問がなされた。


交流送電ケーブル 1B-p04-08 座長 浜辺 誠

交流ケーブルでは5件の講演があった。まず「1B-p04:王(早大)」らは、275 kV級YBCO超電導ケーブルの63 kArms、0.6 sの短絡試験に対して、中空フォーマケーブルではHTS導体
層の温度上昇が30K以下になることを実験的に示すとともに計算コードで良く再現できることを示した。
「1B-p05:中山(古河電工)」らは275 kV-3 kAの30 m超電導ケーブルを製作し、2012年秋より長期課通電試験を行っている。対地200 kV課電時の誘電損失は目標値以下、3 kA
通電時の交流損失は設計通りと良好な試験結果が得られている。
「1B-p06:我妻(早大)」らは超電導ケーブルの事故時の過渡現象解析のための計算コード開発として、管路内の冷却過程を模擬した解析モデルに循環ポンプなどの冷却系を含む
ことで、短絡事故時の圧力変動の実験値を再現できることを示した。
「1B-p07:秋田(東北大)」らは、これまで提案してきた三相同軸HTSケーブルを洋上風力発電の海中送電に用いた時の送電距離の検討のために、同構造でのLN2輸送の熱計算を
行い、加圧条件下で数十kmの冷媒輸送ができる可能性があることを示した。
「1B-p08:大屋(住友電工)」らは異なる基板・線材幅のGdBCO線材で4層短尺ケーブルを試作し、レーザースリットにより2 mm幅としたClad線材を用いたケーブルが最も交流損失が
低くなったことを報告した。


5月13日(月)
C会場 10:30-18:00

HTSバルク・着磁 1C-a01-06 座長 藤代 博之

本セッションでは、HTSバルク・着磁に関する6件の発表がなされた。
瀬戸山ら(東大: 1C-a01)はRE123溶融凝固バルクを作製する際の組織や臨界電流密度へのREイオンの混合効果について報告し、臨界電流密度の磁場依存性を向上される効果を
示した。
山木ら(東大: 1C-a02)は、従来Y123とY211を別々に作製し混合するプロセスの欠点を改良するため、原料粉にBaO2を用いた低温合成でY123とY211を一度に作製するプロセスを
提案し、特に40 Kの低温における臨界電流密度の向上を報告した。計算上では10 Tを越える捕捉磁場が予想され、今後の研究の進展が楽しみである。
木伏(新潟大: 1C-a03)、岡(新潟大: 1C-a04)は、DyBCOバルクの比較的低い磁場印加のパルス着磁において、GSBとGSRの多地点での局所磁場と温度の時間依存性を測定し、
磁束の運動について考察した。
森田ら(新日鐵住金: 1C-a05)は、REBCOバルクのパルス着磁における捕捉磁場の不均一を解決するバルクとして、周回電流を幾何学的に制限する2つのバルク(入れ子型とリング
積層型)を提案し、実際のパルス着磁の実験を行い、予想通りの同心円型の捕捉磁場分布を確認している。
仲村ら(理研: 1C-a06)はバルク超電導体を用いたNMR/MRI用超電導磁石の磁場中冷却着磁に関する着磁過程の評価について報告した。捕捉磁場の均一性と着磁時の温度
変化についての考察が行われた。


核融合(1) 1C-p01-03 座長 高橋 良和

本セッションの3件は、次世代のヘリカル型核融合炉(FFHR-d1)を目指した30 kA級高温超伝導体の製作と試験に関する発表であった。
最初に、NIFSの柳氏(NIFS)(1C-p01)から、導体の製作と試験の概要の説明があった。導体は最大磁場13 Tで直流通電を行う設計である。1回目の試験において、導体接続に
問題があったので、接続部を改良して、2回目の試験を行った。
続いて、寺崎氏(総研大)(1C-p02)から臨界電流測定結果が報告された。1-7 T、4.2-30 Kの範囲で、測定された結果が報告された。
最後に、伊藤氏(東北大)(1C-p03)から導体接続部の改良と電気抵抗の評価について発表があった。1回目のサンプルは、構造に問題があり、接触面積の低下及び応力集中
による線材の損傷があったため、接続抵抗が大きくなった。構造を改良し、低い抵抗値(数nΩ)を得たことが示された。


核融合(2) 1C-p04-08 座長 小泉 徳潔

核融合(2)のセッションでは、約30人の参加があり、NIFSから「核融合炉に向けたアルミニウム合金被覆Nb3Sn導体の大電流化」(高畑一也)、「LHDヘリカルコイルにおける常伝導
伝播時のバランス電圧の再考」(今川信作)が報告された。前者は、次期LHD用の間接冷却型導体の開発状況を報告したものであり、React-and-wind法で高い超伝導性能を
達成できることを示された。ただし、React-and-wind法を採用する場合、曲げの曲率が大きくなるターミナル部については、今後さらなる検討が必要であることが説明された。また、
後者では、LHDでクエンチ伝播について、磁束変動を測定することで、クエンチの起点を特定することに成功した。
東北大から、「CIC導体ジョイント部における超電導素線-銅スリーブ間抵抗分布解析」(森村俊也)が報告された。CIC導体のジョイント部における素線と銅スリーブの接触度合いと
ジョイント抵抗の関係について、素線軌跡を追跡して接触点を割り出す解析と各素線毎に接触抵抗値を測定する実験の両面から評価され、これらは概ね一致した。
JAEAから、「JT-60SA中心ソレノイド用ジョイント部の抵抗測定結果」(村上陽之)、「JT-60SAヘリウム冷凍機の仕様」(神谷宏治)が報告された。前者は、JT-60SA中心ソレノイド
(CS)コイル用のバット・ジョイント試験の結果が報告された。ジョイント抵抗は、ほぼ目標値を満足した。バット・ジョイントでは、ジョイント内の温度上昇によって、その冷媒温度での
臨界電流値に比べて比較的低い電流値で常伝導転移を起こすが、定格電流値としては問題が無く、実機への適用に目途を立てた。後者では、JT-60SA用に調達を進めている
冷凍機の設計、仕様が報告された。統計処理を実施することで、冷凍機の要求能力を合理化する手法も提案された。


5月13日(月)
D会場 10:30-17:45

計測・基礎(1) 1D-a01-05 座長 仲井 浩孝

1D-a01:高木(岡山大)は、高温超伝導SQUIDを用いた直交流磁場を用いた好感度小型磁化率計を開発し、一次微分コイルを軸形に設置することにより平面形設置に比べて
感度が2倍になることを見出した。
1D-a02:大平(東北大)は、三角形管内を流動するスラッシュ窒素の圧力損失低減や伝熱劣化特性を計測し、円管や正方形管内での特性と比較し、また、PIV可視化により固体
粒子の挙動と特性との関連を明らかにした。
1D-a03:高田(NIFS)は、 超流動ヘリウムを作動流体とする鉛直ヒートパイプの臨界熱流量がヒートパイプ内の形状にどのように依存するかを計測した。ヒータを上端に設置し、
パイプ内にステンレスワイヤを入れた場合は臨界熱流量が増大したが、ガラスビーズを入れた場合に変化がなかった。また、ヒーターを下端に設置した場合には、液膜が増大し、
臨界熱流量が約10倍となった。
1D-a04:前川(神戸大)は、液体水素用外部加熱型MgB2液面センサーの温度分布をシミュレーション解析し、実験結果の再現に成功した。外部ヒーターの最適化のため、外部
ヒーターの巻線間隔を途中で変化させた場合についても解析を行っている。
1D-a05:武田(神戸大)は、輸送用タンク内での液体水素の静止時の温度分布や加速・減速時の液面振動等をシミュレーション解析した。防止板によるスロッシング抑制の
解析等は今後行う予定である。
1D-a06:久保田(芝浦工大)は、高温超伝導体や固体超流動など、従来の現象とは異なる新しいタイプの超伝導体の調査研究を目的とした研究会の紹介を行った。固体超流動の
実験では、ねじれ振り子を用いて固体と液体の比を測定し、超流動状態の出現を確認する。


疲労 1D-p01 座長 熊谷 進

1D-p01:小野(NIMS) Alloy 718 Ni基超合金を対象に77 K高サイクル疲労試験を行いS-N曲線および組織観察から疲労特性に及ぼす結晶粒径の影響について検討し、粒径が
不均質な混粒γ組織を有する場合、高サイクル疲労における破断の起点は粗粒部の疲労き裂発生にあり、均一細粒材と比較した疲労強度低下の原因となっていることを明ら
かにしている。また、静的引張試験から得られる引張強さおよび0.2%耐力と疲労特性の関連についても論じ、極低温構造材料の選定指針について活発な議論が行われた。


A15線材 1D-p02-03 座長 杉本 昌弘

1D-p02:長村(応科研)は、Nb3SnおよびNb3Al線材中の超電導フィラメントに生起する熱歪みの温度依存性を測定した。超電導相とNbは弾性的に、CuとCu-Snは弾塑性的に、
かつ、Cuのクリープ変形を考慮して、実験結果を解析した。本研究においては、線材中のNb3SnおよびNb3Alの熱歪みが圧縮性となる温度が、それぞれ421 Kおよび380 Kで
あった。この計算方法を延長すれば、4.2 K付近の極低温での熱歪みの推定が可能となると結論した。
1D-p03:伴野(物材機構)は、アトムプローブ分析により相変態Nb3Al相内のAl偏析の分布を調査した。ピンニング力が大きいサンプルは、Al原子がNb3A1相内に20 nm間隔で
層状に偏析していたが、ピンニング力が小さいサンプルにはそれが検出されなかった。このAl偏析による積層欠陥の間隔はTEM観察の結果と一致していることから、この積層
欠陥がピンニング力と深く関わっている可能性があると結論した。Nb3Al線材の性能向上のために、その組成を化学量論組成からAlリッチ側とすることによりAl偏析を積極的に
起こさせることの有効性について議論があった。


ピンニング 1D-p04-07 座長 山田 穣

本セッションでは、以下の4つのピンニングに関する発表がなされた。
1D-p04:Gd/Ba 組成制御によるBaHfO3 添加Gd1+xBa2-xCu3Oy 線材の超伝導特性及び微細構造観察;樋川 一好(名大)ほか
1D-p05:Control of the flux pinning properties on BaHfO3-doped SmBa2Cu3Oy films by changing deposition temperature;TSURUTA Akihiro (Nagoya Univ.)他
1D-p06:低温成膜法を用いて異なる成膜温度で作製したBaHfO3 添加SmBa2Cu3Oy 薄膜の磁束ピンニング特性;三浦 峻 (名大工)他
1D-p07:高品質 Bi2212 エピタキシャル薄膜の透過電顕観察と磁束ピン止め機構;山崎 裕文(産総研)他
前半の3つは、以前から続いているYBCO薄膜中におけるBa系酸化物人工ピンの挙動であるが、最近出てきたBaHfO3(BHO)ピンの組織、特性がより詳しく調べられ報告された。
また、名大で開発してきたLTG法の適用も検討されていた。線材特性もかなり向上しているが、他方、今回の学会でもコイルや機器応用の発表が増えており、77 Kの特性だけ
でなく、機器が使用される低温(20-50 K)の特性も報告されると、さらに良かった。最後の発表は、Bi系薄膜のピンニングであるが、意図はY系で人工ピンの特性向上が著しい
ので、Bi2212薄膜のピンの特性を再度詳細に議論して、Y系にも生かそうとのことである。今回は、TEM観察、組織検討を詳細に行い、低温でBi2212のパンケーキ磁束が個別に
動くことはなく(すなわちピンが効く領域)、積層欠陥周辺部、双晶界面などがピンとして有効であるとの見解であった。
Y系への機器応用への期待がさらに高まっており、同様にIcJcへのさらなる向上も期待されており、一層の高特性化ができればそれに越したことはない。ただ、応用の現状も
見ながら、利用される温度、磁場、さらには導体構造(絶縁材、安定化材ほかの厚みなど)も考慮して、線材特性改善を進めるのが肝要である。
なお、2番目の1D-p05は国際交流若手賞エントリーで、予稿、発表、質疑応答全て英語で行った。発表者も聴衆も英語に苦労なく進行したと思えた。今後の若手研究者への
モチベーションアップに非常に効果的であると思え、さらに応募が増えることを望みたい。


5月13日(月)
P会場 ポスターセッションI 14:15-15:30

計測・基礎(2) 1P-p01-06 座長 岡村 崇弘

1P-p01:高崎(佐世保工専)らは液体ヘリウム中でアーク放電法でのカーボンナノチューブの生成を行ってきており、今回の報告では液体窒素ならびに液体ヘリウム中での絶縁
破壊電圧の電極間ギャップ依存性に関する測定結果の報告がなされた。
1P-p02:竹下(金沢大)らはキャパシタンス式熱膨張・磁歪測定装置において、測定資料と測定セル材料の銅との熱収縮率の違いを緩和する可動電極を有する新たな装置の開発
並びに動作試験結果に関して報告がなされた。
1P-p03:山田(鉄道総研)らは光ファイバ温度センサにおいて亜鉛コーティング、銅コーティング、亜鉛スパッタリングでの感度に関する報告がなされ300K-10K近傍までのFBG波長
シフト量に関して実験結果ならびに理論予測値との比較検討がなされた。
1P-p04:甘日出(豊橋技科大)らは組物CFRPの引張試験により生じた繊維破断をサンプル上に発生する渦電流により発生する磁場勾配をSQUIDで検出するシステムを用いて
試料内に生じている繊維間剥離を検出可能性に関して実験的に示された。
1P-p06:浜辺(中部大)らは200 m級超電導直流送電実証試験装置に関する冷却試験結果に関して、冷却システムの性能評価として、通電試験、冷媒流量、温度変化などに
関するトレンド等についての報告がなされた。


超伝導特性評価・Fe系線材 1P-p07-10 座長 井上 昌睦

1P-p07:中西(SRL)らは、レーザースクライビング加工を施したPLD-GdBCO線材の曲げ特性について調べ、圧縮歪みは測定限界である歪み量0.9%までIcの劣化は見られなかった
こと、引張り歪みは歪み量0.5%(曲げ直径24 mm)付近からIcの劣化が始まり、0.7%付近(曲げ直径12 mm)でIcがゼロなったことを報告した。Icが劣化した線材は表面(Ag保護
層)上は顕著な剥離や損傷が見られないものの、MOIにて観測すると超電導層の線材幅方向に入ったクラックが長手方向に密に存在する様子が観測されるとのことである。
1P-p08:五十嵐(千葉工大)らは、セラミックスの導電性の利用を目的に、銅酸化物系超電導体の導電率について調べている。銅酸化物系の中でも元素数の少ないLa2CuO4
選択している。現在は一軸加工成形と焼成により試料を作製しており配向はランダムであるが、今後基板を用いた配向材料の作製を予定しているとのことである。
1P-p09:杉本(豊田中研)らは、Deep-RIE法と呼ばれる手法で形成される深さ方向にアスペクト比の大きいトレンチ構造の内部に作製したNbN膜について報告を行った。Deep-RIE
法で行われる周期的なエッチングと保護膜形成に伴い生じるSi壁表面の微小な凹凸により、自己組織的にNbN膜のストライプ構造が生成されることを実験により明らかとしている。
1P-p10:井澤(首都大)らは構造相変態PIT法によるFeSeTe超電導線材の作製について報告を行った。構造相変態PIT法は、六方晶構造であるFe(Se,Te)1+dを鉄シース中で熱処理
することにより、鉄シースから鉄を供給し、正方晶構造のFe(Se,Te)へと構造相変態させようとする新しい線材作製プロセスである。臨界電流そのものは十分に得られていないものの、
ものの、今後の進展が期待される。


HTSバルク・応用 1P-p11-16 座長 仲村 高志

本セッションは合わせて6件の発表があった。
1P-p11: 手嶋(新日鉄住金)等は捕捉磁場分布から見積もられるマクロJcと、切り出した小試験片で測定したミクロJcを比較検討した報告で、バルク超電導体の物性値として重要な
Jcに関してマクロとミクロに大きな差が認められないバルク超電導体では非破壊的なマクロJcでも充分にバルクの特性を推定できることを報告した。
1P-p12: 大浦(東大)等はp11同様に実際の補足磁界分布からJc-B特性を求めるが、逆問題解析を使うことでバルクの各部分に対するミクロJc推定のための拡張を報告した。
1P-p13: 山田(新潟大)等は溶融バルクの種結晶を2つにすることでファセットの非対称性を形成し、超電導バルク面内の特性分布をつけてパルス着磁の際に磁束の侵入しやすい
方向を作ることでパルス着磁の着磁特性を向上する方法を示した。
1P-p14: 横山(足利工大)等はp13と同様の目的でバルクに細孔を施すことによりパルク着磁の特性向上を目指した補足磁場特性が報告された。
1P-p15: 藤代(岩手大)等はp14での細孔によるパルス着磁特性の変化をシミュレーション解析を報告した。
1P-p16: 二村(秋田県立大)等はバルク超電導体上にピン止め浮上させた永久磁石のダンピングが永久磁石表面に磁性流体を吸着させることによって抑制されることを報告した。


磁気分離処理 1P-p17-20 座長 植田 浩史

1P-p17(宇都宮大・小野寺氏):酪農排水からSS(懸濁物質)とリンを高速に除去することを目的としている。SSとリンを凝集剤によって形成させたフロックに捕捉し、マグネタイト
によって磁気シーディングされた磁性フロックをマグネットバーを用いた磁気分離装置で除去した。今回の実験で使用した排水(宇都宮大学付属農場からサンプリング)では、
十分な除去率を得るためにはFe3+の添加量が約1000 mg/L必要で、リンとSSと同様にFe3+を1000 mg/Lとすると凝集処理だけで約96%が除去できた。処理速度は100 cm3以下
のコンパクトな磁気分離装置で一日の排水4 m3を分離できるとのことである。
1P-p18(宇都宮大・酒井氏):市販の回転式ドラム型磁気分離装置(NEOMAXエンジニアリング,NCS-12)を磁化活性汚泥法に適用した。従来の多円板磁気分離装置の
数倍の磁気分離性能を示し、98%のSSの除去率が得られた。
1P-p19(宇都宮大・小室氏):標準活性汚泥法での処理が難しい複数の工業排水(油分と界面活性剤を含む厨房排水、高濃度有機酸と金属を含む科学めっき排水、窒素
とリン不足の歯磨き製造排水)に対して、磁化活性汚泥法の実用の可能性を検討した。いずれの排水も良好な除去性能が得られた。磁化活性汚泥パイロットプラントがアジア
の発展途上国に設置され、実証実験が計画されているとのことである。
1P-p20(神戸大・赤澤氏):ローレンツ力を利用した海水・油分離装置の開発に関する報告である。今回は分離装置内の海水の流れについて知見を得るため、断面積が同じで
形状が異なる海水流路をもつ分離装置を製作し、流路断面の形状が海水の流れに及ぼす効果について計測した。


送電ケーブル 1P-p21-24 座長 増田 孝人

本セッションでは、Y系ケーブルの報告が2件、鉄道用き電線の報告が2件あった。
Y系ケーブルに関しては、275 kV級ケーブルに関するもので、ひとつは絶縁厚が厚くなり冷却性が悪くなることを防ぐため、中空フォーマを採用し電熱特性を調べたものと、事故
電流を想定してY系線材に過電流が流れた場合の耐力について調べたものであった。
鉄道用き電線については、1件は実際の鉄道運行パターンをモデルに、超電導ケーブルがき電線に導入された際のメリットを計算したもので、回生効率の向上等のメリットが
あることが示されていた。もう1件は、実際にき電用のモデルケーブルを試作し、その特性を評価を行ったものであった。鉄道用超電導ケーブルは、最近研究されだした新しい
開発分野である。


Y系コイル化技術(2) 1P-p25-30 座長 川越 明史

Y系コイル化技術(2)のセッションでは、5件の発表があった。
1P-p25は、九大・九電・ISTECのグループからの発表で、超伝導2本転位導体で巻線したコイルの付加的交流損失に関する報告であった。今回は、二層コイルの場合について、
解析と実験の両面から検討していた。測定結果と解析結果はほぼ一致しており、解析の妥当性が示されていた。転位位置がズレると付加的交流損失が増大するが、付加的
交流損失が問題になるほど、転位位置に大きなズレが生じる可能性は低いとのことであった。
1P-p26は、九大・富士電機、九電、ISTECのグループからの発表で、ダブルパンケーキコイルを転位並列導体で巻線した場合の電流分流特性について検討した結果の報告で
あった。これまでシングルパンケーキコイルで検討してきた方法をダブルパンケーキコイルにも適用させた結果、十分に均流化させることができるとのことであった。しかしながら
巻乱れが起きてコイル径方向へ素線がズレた場合には、偏流が問題になる可能性があるとのことであった。
1P-p28は、鉄道総研と前川製作所のグループからの発表で、市販のREBCO線材を使用してレーストラックコイルを設計し、その比較を行った結果の報告であった。レーストラック
コイルは、起磁力700 kA、最大経験磁場5 T、運用温度の上限を50 Kとして設計していた。メーカー毎に線材特性が大きく異なるため、今回想定したコイルでは、適している線材
とそうでない線材の差が明確に表れていた。なお、磁界依存性が大きく異なるため、77 K自己磁界中の臨界電流密度とコイルの電流密度には相関がないという結果が得られて
いた。さらに、コイル断面内の臨界電流密度に対する負荷率分布を調べており、線材特性で分布が大きく変わっていることも明らかにしていた。この負荷率分布は、コイル設計上
よく検討すべきである点であることも指摘していた。
1P-p29は、東北大、東芝、フジクラのグループからの発表で、エポキシ含浸したGdBCOコイルの熱履歴、及び遮断が及ぼす影響について調べた内容であった。今回は、シングル
パンケーキコイル二つを伝導冷却で冷却し、熱履歴、電磁力、試験コイルの電流遮断、バックアップコイルの電流遮断がどのような影響を及ぼすかを検討していた。今回は、初期
冷却時に劣化が生じていたため、十分なデータが取得できていなかった。今後の実験結果が期待される。
1P-p30は、フジクラからの発表で、真空含浸したREBCOコイルの試験結果についての報告であった。ハステロイ基板を100 μmから75 μmへ薄肉化した線材を使用して外径98 mm
のコイルを試作し、このコイルの通電試験を5 Tの外部磁場中で行っていた。まず、外部磁界がない状態で、含浸前後の特性を液体窒素中で測定しており、10-8~10-6 V/mの電圧
領域で特性の変化は観測されていなかった。また、含浸後に行った7回のヒートサイクル後も同様であった。次に、 5 Tの外部磁界印加中で通電試験を行い、102.4 A通電、中心
磁界5.355 Tを達成したとのことであった。なお、この磁界中通電の後に再度液体窒素中の通電を外部磁場なしで行い、コイルの健全性が確認されていた。以上のことから、
剥離の問題を軽減できていることが示されていた。




5月14日(火)
A会場 9:45-17:50

回転機 2A-a01-06 座長 岩熊 成卓

本セッションではあわせて6件の発表があった。まず、中村武恒氏を中心とした京都大学、イムラ材研、アイシン精機の共同研究グループより、HTS-ISM(高温超電導誘導
/同期回転機):かご型誘導器の二次巻線(回転子)を超電導化した半超電導モータの研究開発経過に関する4件の発表がなされた。ここでは、低交流損失化による高効率化、
可変速制御法の検討、冷却・安定性、さらにバルク材を回転子鉄コア内部に組み込み、リラクタンストルクを稼いで高トルク・高効率化を図る検討結果等が詳細に報告された。
次に、鉄道総研の荒井氏より、鉄道用フライホイール蓄電装置に用いる高温超電導磁気軸受に関する研究開発経過が報告され、20 kN以上のスラスト荷重の発生と非接触
回転確認の報告がなされた。
最後に、東京海洋大学の牧氏より、10 MW風力発電機について増速ギアなしのダイレクトドライブを想定し、1)現用機、2)PM(永久磁石)を回転界磁極に用いた場合、3)HTS
マグネットを回転界磁極に用いた場合の3通りについて、効率、重量等諸特性に関する詳細な比較検討結果が報告され、HTSマグネットの優位性が示された。


5月14日(火)
B会場 10:00-11:15

Y系基礎(1) 2B-a01-05 座長 松本 要

本セッションにおいては5件の口頭発表が行われた。
2B-a01 堀出(九工大,代理松本) IBAD基板上に作製したYBCO薄膜にダブルAPC(BaSnO3ナノロッドとY2O3ナノ粒子)を導入した結果の報告があった。Jcの磁場角度依存性
よりナノ粒子が効果的にJcの増大に貢献していることが示された。
2B-a02 一瀬(電中研) パルスレーザー蒸着法によるY系超電導薄膜において,BaHfO3(BHO) とBaNb2O6 (BNO)のナノロッド形態が,成膜温度の違いによってどのように
変化するかを報告した。また,超電導特性との関係も示された。
2B-a03 淡路(東北大) B//ab方向に現れるイントリンジックピンニングの効果について,ミアンダ構造を持つ長いブリッジを利用して低電界領域を調べ,n値の角度依存性に
ディップとして現れることが示された。これらの振る舞いは,キンク対励起状態に関連することが示唆された。
2B-a04 堀井(京大) エピタキシー技術を使わない新しい三軸結晶配向法である磁場配向技術を用いて,YBa4Cu4O8 (Y124)の三軸結晶配向を実施しその結果が示された。
この手法で90 K級のTcを有するY124相の合成が可能とのことであった。
2B-a05 下山(東大) 高品質のRE123粉末製造法を開発し,この粉末を用いて、固相反応法にてY123を焼結すると,焼結温度が従来の温度より低い850~860℃で進行する
ことが示された。焼結後に還元,酸素アニールを与えると臨界電流特性が大きく改善するが報告された。


5月14日(火)
C会場 10:00-11:15

MgB2(1) 2C-a01-05 座長 内藤 智之

2C-a01:水谷(東大院) ex-situ法で作製したMgB2バルクが持つ低コネクティビティという問題を改善するために、比較的粒径の大きいMg粉末を使用してin-situ法で作製した
MgB2粉末を出発原料とした。その結果、高純度のMgB2が得られ、コネクティビティが大きく向上したことを示した。
2C-a02:葉(NIMS) 炭素コーティングしたホウ素ナノサイズ粉末をジメチルベンゼンで湿式混合・乾燥させた後、内部拡散法によってMgB2線材を作製した。緻密で均質な
MgB2が得られたことで臨界電流密度が向上したことを示した。
2C-a03:東川(九大) 内部拡散法で作製されたMgB2線材において走査型ホール素子顕微鏡による局所臨界電流分布測定と電子顕微鏡による組織観察を行い、臨界電流
低下部分と不純物の存在の対応関係を見出すことに成功したことを報告した。
2C-a04:張(NIMS) キシレンまたはトリフェニルアミンを添加したMgB2線材をin-situ PIT法で作製した。キシレン添加はMgB2の生成促進と微細化をもたらすことにより、トリ
フェニルアミン添加は炭素添加効果により臨界電流密度を向上させることを示した。
2C-a05:志村(東京ワイヤー製作所) 液体水素用液面計に使用する目的でAlを添加したMgB2線材の開発を行った。Alを0.2%添加することで超伝導転移温度が20 K程度
になり、液面計として動作することが分かった。動作試験において液面と発生電圧は良い線形性を示し、時間的安定性も良好であることを報告した。


5月14日(火)
D会場 10:00-11:15

冷凍機 2D-a01-05 座長 増山 新二

本セッションでは,5件の発表があった。以下に概要を述べる。
2D-a01:森江(SHI)らは、4 K-GM冷凍機のロータリーバルブの最適化を図っている。従来のものより小型にして、コールドヘッド駆動用モータへの負荷が低減できている。冷凍
性能は、従来とほぼ変わらないことが報告された。
2D-a02:朱(同済大学)は、1段GM冷凍機の圧力バルブの開閉タイミングに注目して,等温モデルによる数値解析を行った結果を報告された。タイミングを調整することにより、
現状のGM冷凍機の効率を改善することが可能であり,さらに冷却温度が低い方が望ましいとのことである。
2D-a03:李(NIMS&千葉大学)らは,磁気冷凍システムの最適な再生器形状を数値解析から検討している。検討しているMicro-channel再生器は、平板再生器と球体を充填
した再生器の二つの特徴を持ち合わせていることが特徴である。実験結果との比較が待ち遠しいところである。
2D-a04:中川(産総研)らは、PLTS-2000実現へ向けた核断熱消磁冷凍予冷用希釈冷凍機を製作している。製作した希釈冷凍機は4 mKまでの冷却が可能となったことを報告
された。室温からの冷却時間は3.5日程度とのことである。
2D-a05:岡村(KEK)らは、ソープション冷凍機を使用し超伝導TESボロメーターを運転する開発中のシステムを紹介された。現在のところ、ソープション冷凍機やミリ波検出
システムの冷却・動作試験は,ほぼ設計通りの性能が得られているとのことである。


5月14日(火)
P会場 ポスターセッションII 13:15-14:30

小型冷凍機・磁気冷凍 2P-p01-05 座長 池内 正充

2P-p01:増山(大島商船高専) 蓄冷剤の充てん量を減少させても冷凍能力が減少しないことについて、メーカが余裕を持たせた量を封入しているのか、あるいはベークライト挿入に
より流れる冷媒の流速が増大し熱伝達率が向上したのか現状では原因不明とのことであった。新しい着眼点であり、今後の研究の進展に期待したい。
2P-p02:門間(千葉大) 磁気冷凍に関し回転励磁法を提案し試験装置を製作し、その試験で得られたデータを解析し、さらに新たな課題を見つけ出していく手法は論理的で説得力
があった。ただし、説明図に関しては分かりにくいとの声が多かった。
2P-p03:土屋(住重) 現象の把握が困難なDCフローの影響を試験的に冷凍能力の観点で把握し、DCフロー防止が効率向上に寄与することを実証したことが注目されていた。
パルス管冷凍機の効率向上の新たな解決策となることを期待したい。
2P-p04:宮崎(鉄道総研)、 2P-05:高橋(エア・ウォータ総合開発研究所)目標が明確であり、着実に研究を進めているという印象があった。実験による豊富なノウハウの蓄積がある
ことを伺わせるが、最終的には走行実験での実証が必要とのこと。実用化を期待したい。


冷却システム(1) 2P-p07-10 座長 上岡 泰晴

本セッションでは4つのポスターがあった。それぞれに内容の概略を述べる。
2P-p07「センサー冷却用断熱消磁冷凍機の開発」植田隼治ほか: NASAの考案した連続冷凍型断熱消磁装置についての開発である。装置の紹介と、4 K冷凍機への熱負荷についての
解析を行った。熱負荷の経路や構造、材料、電流値などについての説明をもう少し必要と感じた。
2P-p08「GM冷凍機と液体窒素を用いた大型HTSコイルの極低温TESTのための伝導冷却システム」KIM Hyung Jin ほか: 大型の冷凍機直冷型HTSコイル製作に先立つ、TEST用
冷凍機直冷型冷却テーブルの冷却試験結果の報告であった。接触による伝熱箇所での温度差は1K程度に抑えられ、良好である。非冷却質量が大きく、初期冷却に時間が掛かるため、
液体窒素による初期冷却を行うことにした。これにより、20時間の初期冷却が10時間となった。到達目標温度は30Kである。冷凍機はULVAC RSC30Tで70 W@29.8 Kである。
2P-p09「ヘリウムを用いたループ型サイフォンの冷却性能評価試験」青木学ほか: 大型では実績のあるループ型サーモサイフォンの小型版についてその冷却性能評価を行った。液体
ヘリウムとガスヘリウム共存の場合には、熱流0.6 Wで1万W/mKもの高熱伝導率に相当する熱を伝えることがわかった。ガスヘリウムのみの場合でも熱流2W程度で2千W/mKの熱伝導率
換算になった。
2P-p10「トランスファーチューブ用スペーサ構造の検討」佐保典英: フレキシブルトランスファーチューブの真空層スペーサに、数十ミクロンのポリイミドフィルムを使用する斬新な設計である。
内管、外管に接触する2つのリング間にフィルムを接着してスペーサとした。高度な断熱を必要とするLHeトランスファーチューブに使用される。

冷却システムのポスターセッションは、多くの人から興味が持たれ、質問や議論で混雑していた。特に斬新なアイデアや、役に立つデータに議論が集中した。


MgB2(2) 2P-p11-12 座長 一木 洋太

2P-p11:藤井(NIMS)らは、ex-situ法MgB2線材の炭素置換方法の改善について報告した。これまで検討してきた有機酸溶液処理やミリング処理ではなく、予めMg、B、Cの粉末を混合して
900℃で熱処理し、充填粉末とする。また充填粉末に含まれるMgOの低減に安息香酸ベンゼン溶液による処理が有効であることを示した。試作したFeシース線材では4.2 K, 10 Tにおいて
6 kA/cm2Jcが得られた。
2P-p12:赤坂(鉄道総研)らは、熱処理条件をパラメータとしたMgB2バルクの捕捉磁場特性について報告した。温度650-1000℃、時間0-12 hの範囲で熱処理条件を変えて直径20 mm、厚さ
10 mmのバルクを作製し、温度700-1000℃、時間1-12 hという広い範囲で、表面磁場1.5 T(@15 K)以上を捕捉可能なバルクを実現可能であることを示した。SEM観察結果から、いずれ
の試料も結晶粒径は最大1 μm程度であり、高温における結晶成長は見られない。


Y系基礎(2) 2P-p13-15 座長 下山 淳一

2P-p13:小島(名大)らは、コンビナトリアル-PLD法によってCuサイトに不純物元素(Fe, Co, Ni, Zn)を微量置換したY123薄膜を作製し、その超伝導特性の変化を報告した。不純物添加
によってTcが大きく低下していることから、CuO2面への置換が起きていると思われ、77 KでのJcも低下しているが、今後の低温での特性評価に興味が持てた。なお、Coを置換した試料
においてはHc2が上昇する兆候が認められている。
2P-p14:益田(九大)らは、BaHfO3ナノロッドを含むEu123薄膜テープの交流損失の温度スケーリングを試みた結果を報告した。ゼロ磁場下でのIcがスケーリングに支配的な因子であり、
各温度の交流損失が予測できるとのことであった。なお、ゼロ磁場下でのIcとは磁化ヒステリシス測定から解析によって求めたものである。
2P-p15:吉田グループ(名大)からIBAD基板を用いたY123薄膜に対する微量BaHfO3ドープ効果を報告した。BaHfO3ドープ量が低下するとナノロッドは形成されず、同時に低磁場での
Jcが上昇する傾向が見出されている。BaHfO3ドープについては高磁場特性改善に主眼が置かれていたが、ケーブルなど低磁場応用に興味深い方法でありBaHfO3に限らず、他の
BaMO3の低濃度ドープにおいても同様な効果が現れると思われる。


加速器(1) 2P-p16-18 座長 佐々木 憲一

2P-16槌本(道工大):バルク高温超伝導体を用いたアンジュレータ磁石において磁場解析を行い、超伝導体配置の最適化の結果等について報告された。半円上バルクを交互に並べる
スタガードアレイタイプについて、端部に配置するバルク寸法および位置を調整する事で理想的な磁場分布が得られる事を示した。
2P-17齋藤(早大):高温超伝導ケーブルを用いた次世代超伝導サイクロトロンの開発を目指し、要素技術の一つである巻線精度の高精度化について報告がなされた。ダブルパンケーキ
のコイル半径が、線厚さ測定結果から予想されるコイル半径よりも大きくなったと報告された。線材幅方向の厚みのばらつきが影響しているかもしれないとの事であった。実機での目標
巻線精度、導体内電流分布の影響との比較などについて議論がなされた。
2P-18有谷(早大):2P-17において製作されたダブルパンケーキコイルの磁場測定結果と計算結果の比較に関して報告された。角度方向における理想的な磁場分布と比較して、ホール
素子での測定結果では数ガウスの変動があった。また、数値計算結果からは中心付近にて最大で約9ガウスの誤差が生じた。原因としては巻線精度、遮蔽電流や測定誤差等が考えら
れる。今後はこれら原因の影響について精査する予定との事である。


電気機器 2P-p19-21 座長 中村 武恒

九州大学の大坪ら(2P-p19)は、6.9 kV-400 kVA級の限流機能付超電導変圧器について、突発短絡特性の検討結果を報告した。実験ならびに解析結果に基づき、変圧器の過負荷
耐量や限流特性を示した。
九州大学の猿渡ら(2P-p20)は、200 kW級Y系超電導モータの設計検討結果を報告した。Y系界磁巻線を適用した場合について、既存機に対する圧倒的優位性が示されていた。
ただし、上記優位性の実現可能性について説明が明瞭で無く、やや残念であった。
鹿児島大学の平山ら(2P-p21)は、Y系線材を適用したリニアスイッチトリラクタンスモータの特性解析結果を報告した。既存機に対する具体的優位性の検討については、今後の課題と
のことであったが、あまり検討されていなかった応用分野であり、今後の展開が期待される。


Y系コイル特性・保護 2P-p22-27 座長 花井 哲

Y系コイル特性・保護では、6件の発表があった。
2P-p22:王(早大)らは、Y系導体で製作したコイルに発生する遮蔽電流の評価・予測技術の確立を目的に、Y系導体でダブルパンケーキコイルを製作し、コイルに三角波通電を行って、
コイル中心およびコイル近傍の磁場を測定、解析結果との比較を行った。両者は、良い一致を示した。
2P-p23:南(早大)らと2P-p24:荒川(早大)らは、Y系導体をSMESに応用した際の常伝導転移の検出方法としてこれまで提案してきた電流転移検出を4枚バンドルのダブルパンケーキ
コイルを用いて実験と解析から実証した。
2P-p25:松田(横浜市大)らは、Y系コイルのエポキシ含浸による劣化を現象を解明するため、エポキシ含浸したY系小コイルを製作、劣化箇所を特定し、顕微鏡観察を行った。
劣化したコイルには、エポキシ含浸のクラック部分で安定化銅のめくれが観察された。一方、ポリイミド被覆した導体で製作した小コイルでは、劣化が観察されなかった。これは、ポリ
イミド被覆にクラックを止める機能と被覆-エポキシ間の剥離で線材への熱応力低減作用があるのではないかと推定している。
2P-p26:柳澤(千葉大)らは、Y系コイルの熱暴走を抑制する手段としてこれまで提案してきたサーマルグリッド法の有効性を示すため、サーマルグリッドを適用したコイルと適用して
いないコイルの発熱挙動を解析で示し、サーマルグリッドがなければ熱暴走するコイルがサーマルグリッドにより、熱暴走が抑制され、可逆的に減磁できることを示した。
2P-p27:寺﨑(総研大)らは、トーラスプラズマ実験装置Mini-RT用の磁気浮上コイルをY系線材でグレードアップした結果について報告した。このコイルは、永久電流モードで運転され
るため、導体の接続抵抗を低減することが大きな課題となる、様々な接続長のサンプルを様々な温度で検証した結果、接続長を30 mmとし、コイルを製作。ほぼ設計どおりの接続
抵抗でコイルが製作され、40 Kで200時間以上の時定数を達成した。


コイル化技術 2P-p28-32 座長 林 敏広

コイル化技術では5件の発表があった。
2P-p28:朱(斗山重工業)らは、DI-BSCCO Type-HTで製作した回転機向け大型Double racetrackコイルを伝導冷却により77 K~30 Kまで評価した結果について報告した。
2P-p29:高橋(昭和電線)らは、Y系線材を使用して1 kA級超電導電流リードの設計・試作評価を行った。ピン入り線材を使用することで、小型化および熱侵入量低減が可能な
ことを確認した。
2P-p30:菅根(昭和電線)らは、ペルチェ電流リードの数値計算結果を行い、銅リードより熱侵入量を低減できる可能性があることを確認した。
2P-p31:宗(KEK)らは、SuperKEKB IR magnet向け電流リードに、2G線材を埋め込み発熱、温度を測定した。実験結果は、解析結果とよく一致していることを示した。
2P-p32:冨中は、折れ線近似による磁場、ベクトルポテンシャル、インダクタンスの解析式の簡略化を行った結果について報告した。任意の形状についても折れ線近似すること
で解析式により求められる。




5月15日(水)
A会場 9:30-15:30

加速器(2) 3A-a01-05 座長 高畑 一也

本セッションでは、KEKのSuperKEKB加速器について2件、FFAG加速器について2件の発表があった。SuperKEKBは、KEKB加速器のビーム衝突部の超伝導4極電磁石を
新しく作り変える計画である。
3A-a01:大内(KEK)は、この新しい4極電磁石の詳細な設計を発表した。一方、補正用の6極電磁石は,常伝導と同時に超伝導でも設計が勧められている。
3A-a02:有本(KEK)からは、常伝導を超伝導にするときの課題は、物理的スペースの小ささと、小型冷凍機を使ったときの振動であることが示された。そのため、クライオ
スタットと冷凍機の設計が課題となる。FFAG加速器では、高温超伝導体を用いた複雑な形状のコイルが開発、研究されている。
3A-a04:合田(京大)は、その複雑な形状を,単純な形状のコイルの組み合わせによって模擬できることを解析によって提案した。
3A-a05:佐野(京大)は、線材の磁化が磁場精度に与える影響を実験的に調べ、温度変化によって多極磁場成分がドリフトすることを見出した。今後の定量的な議論が
待たれる。


次世代定常強磁場施設(1) 3A-a06-10 座長 三戸 利行

オールジャパン体制で進められている強磁場コラボラトリの次期定常強磁場施設整備計画について、関連する5件の発表があった。
「3A-a06:熊倉(物材機構)」では、物質科学研究における強磁場施設の必要性について説明すると共に、米国、欧州、中国での強磁場施設の整備状況に触れ、世界的な
強磁場研究拠点の増強が進んでいることが示された。日本では、日本学術会議の提言に基づき、国内の四機関(物材機構、東北大金研、東大、阪大)を中心として強磁場
(定常及びパルス)の強磁場コラボラトリの計画を進めている。定常磁場に関しては、物材機構と東北大が協力して、ハイブリットマグネット、水冷銅マグネット、30 T超伝導
マグネットならびに25 T無冷媒超伝導マグネットを開発・設置し、共同して効率的な運用を目指している。
「3A-a07:二森(物材機構)」では、50 T級ハイブリットマグネット建設に向けた電源・水冷却設備の整備計画についての発表があった。
「3A-a08:鶴留(住重)」では、無冷媒ハイブリットマグネットの改善結果について発表があり、Nb3Snコイル線材内のNbバリアをTaバリアに変更することにより、励磁時のヒス
テリシス損失が低減し、安定な励磁が可能になったことが報告された。
「3A-a9:渡辺(東北大)」では、50 T級ハイブリットマグネット用の20 T-400 mm大口径無冷媒超伝導マグネットの設計について発表された。
「3A-a10:花井(東芝)」では、18 T無冷媒超伝導マグネットの改善について発表があり、高温超伝導インサートコイルを最新の高性能Bi2223線材を用いたコイルに置き換え、
低温超伝導最内層Nb3Snコイルの改善等により、20.1 Tの高磁場発生に成功したことが報告された。


次世代定常強磁場施設(2) 3A-p01-05 座長 西島 元

次期定常強磁場施設(2)には5件の発表があった。参加者は70名程度であった。いずれも東北大金研が中心となって開発する25 T無冷媒マグネットに関連する研究開発であった。
杉本(古河電工)はNbロッド法によるCuNbを用いて強化したブロンズ法Nb3Sn線材の開発と,それを素線としたラザフォードケーブル開発について報告した。
東北大金研のグループでは2004年に高強度Nb3Sn線材における「事前曲げ効果」を見出して以来,その応用に取り組んでいるが、熱処理後のラザフォードケーブルに事前曲げ
を与えた所、臨界電流の向上率は素線と同様な振る舞いを示し、適用性が実証された。
小黒(東北大)はin-situ法CuNbで強化されたNb3Sn線材(0.8 mm径)16本で構成されたラザフォードケーブルのフープ応力試験結果について報告した。直径270 mmの3ターンコイル
を4.2 K, 14 T中で通電したところ、最大1880 Aまで通電できた。このとき、計測された歪は0.6%であった。ここから外側に共巻きしてあるSUSテープの補強効果を考慮してNb3Sn
素線に印加されたフープ応力は292 MPaと求められ,この応力によって不可逆に劣化したと述べた。
大保(フジクラ)はREBCO線材開発と電磁力試験というタイトルであったが,主として線材開発と特性評価について報告した。フジクラのREBCO線材は従来,安定化Cuが超伝導層
側に半田付けされているが、これをCuメッキ(全周,20 µm厚)とした。77 K、自己磁場での引張りIc試験では可逆限界歪 0.496%、可逆限界応力854 MPaである。半田付けから
メッキに変更したことによる剥離強度の変化は無いとのこと。また,臨界電流の角度依存性についても東北大との共同研究で強磁場領域まで調べていると述べた。
宮﨑(東芝)は、東北大の20 T無冷媒マグネット(旧タイプのAgシースBSCCO線材を用いていた18 T無冷媒マグネットのHTSインサートをCu合金補強DI-BSCCOを用いて再製作し、
20.1 T発生に成功)の22 Tアップグレード計画におけるREBCOインサート設計について報告した。HTSインサートの分担磁場は18T-CSMでは2.5 Tだったが、20T-CSMでは4.45 T、
22T-CSMでは6.6 Tとなる設計である。また,BSCCOではダブルパンケーキ積層であったが,REBCOインサートはシングルパンケーキ積層で製作する。詳細設計のためには、
低温強磁場中におけるIc角度依存性の詳細なデータが必要と述べた。
淡路(東北大)は、H24年度補正予算で採択された25 T無冷媒マグネット開発計画について報告した。現段階の設計では、内径96 mm、外径698 mm、高さ618 mm、インダクタンス
97 H、蓄積エネルギー10.7 MJである。今年度中に設計を確定し,来年度で製作すると述べた。


コイル応用 3A-p06-08 座長 小田部 荘司

3A-p06:最知(東北大)はSMESの線材使用量の最適化について議論を行い、MgB2, Bi-2223, REBCOで異なることを示した。さまざまなパラメータがあるので、線材の使用量だけで
ない最適化について質問があり、議論が行われた。
3A-p07:片山(鹿児島)は高アスペクト比のテープ線材を用いたSMESを想定する超電導パルスコイルについて、付加コイルにより交流損失が低減できることを示してきたが、今回は
交流だけでなく、直流に交流を重畳した際にも効果があることを示した。また付加コイルの臨界電流値が重要であることを示した。
3A-p08:山本(三菱電機)は普及が始まってきた全身用3 T MRI用マグネットについて報告をした。Nb3Snを使う可能性がないか質問があったが現段階ではないということであった。
また5ガウスラインを作るために、アクティブに磁場を消す技術を使っており、1.5 T級と変わらない大きさで実現しているとのことであった。


5月15日(水)
B会場 9:45-15:30

冷却システム(2) 3B-a01-04 座長 中込 秀樹

3B-a01:三戸(NIFS)らはLHD低温システムの総運転時間71,000時間、稼働率99%であることを報告した。高い信頼性の実証結果であり、貴重なデータである。
3B-a02:長谷川(鉄道総研)らは燃料電池式の鉄道車両用の液体水素燃料容器の開発に関して報告した。課題は列車走行中よりも、夜間の車両保管時には出口弁を閉めて内圧
を上昇させてしまうため、内圧の上昇の程度であったが、15時間たっても1 MPa以下に保つことができた。
3B-a03:大野(前川製作所)らは高温超伝導ケーブル用の冷却システムの試験結果を報告した。2台のシリーズに繋がれた冷凍機を3系統のパラレル結合された、計6台の冷凍機
からなるシステムにて、信頼性は高いと考えられる。
3B-a04:駒込(前川製作所)らはスラッシュ窒素の発生システムと循環システムの試験結果を発表した。100-200 μ程度のスラッシュ窒素を固相率20%程度まで高めることが目標で
あるが、現時点での固相率は最大1.2%であり、今後の進展が期待される。


HTS線材特性 3B-a05-10 座長 堀井 滋

3B-a05:菊池(住友電工) 超伝導磁石向けの高強度DI-BISCCO線材(Type H)のさらなる高強度化を目指している。補強材の材質は未公表だったが、Pre-tensionおよび補強材
テープ厚さを変数として線材の引張強度およびJeの変化を明らかにした。30 μm厚の補強材でも500 MPa超の引張強度を実現し、その際のJe低下は10%程度であった。
3B-a06:横溝(九大) BaHfO3 (BHO)ナノロッドを導入したGd123長尺線材(10m長)における臨界電流特性の空間的均質性を通電法で評価し、短尺線材との比較を行った。長尺
線材の3箇所に位置における20 K~77 KにおけるJc -B特性、77 K, 1 TにおけるJcの磁場印加角度依存性、I-V特性から空間的均一性を示した。また、短尺線材との臨界電流
特性の顕著な違いは見られなかった。
3B-a07:井上(九大)  高温超伝導線は77 K・自己磁場中での送電だけでなく運転温度や環境磁場が異なる場合が多い。高温超伝導線の現実的な技術コストとして、77 K・自己
磁場のIcよりも動作環境下のIcで評価することが望ましい。本発表では、Gd123線材におけるBHOナノロッドの有無で技術コストの温度-磁場平面図を比較し、ナノロッド入り線材
の優位性を示した。
3B-a08:東川(九大)  レーザーおよび機械加工で切断したRE系超伝導線材について、加工後の素線の臨界電流密度を走査型ホール素子顕微鏡にて評価すると、ダメージの
程度を有効線幅(高Jc領域の幅)として理解できるようになる。有効線幅は加工プロセスに依存し、レーザーを使うと2 mm線における有効線幅は1.9 mm程度で済む。また、この
評価法を長尺線材(40 m長)で実証し、短尺線材と同程度の精度であることを確認した。
3B-a09:町(SRL-ISTEC) RE系超伝導線材の細線化におけるレーザー加工速度の向上を実現するため、グリーンレーザーの利用、UVレーザーのアシストガスノズルのガス圧・
試料間距離の最適化を検討した。グリーンレーザーの場合、加工速度は劇的に向上するが超伝導線の焼損が見られるなど、加工光源としてはふさわしくない。一方、UVレー
ザーの場合、低加工速度が難点であると考えられてきたが、上記の最適化によって100 m/h程度の加工速度が実現できる見通しを得た。


MOD法線材 3B-p01-04 座長 山崎 裕文

「3B-p01:寺西(九大)」TFA-MOD 法 YBCO 膜に BaZrO3(BZO) ナノ粒子を導入する際、BZO の結晶化が進まない600℃で保持を行うことによってBZO の核生成を促進し、YBCO
膜中の BZO粒子を微細化させ、磁界中Jcが向上した。座長から、「TEM-XMA 測定から粒径分布を推定しているが、Jcの磁界角度依存性で観測された H // ab中心のブロードな
ピークは微細ナノ粒子の場合に対応することから、TEM 形態観察を詳細に行えば、もっと小さなナノ粒子が見えるのではないか」、と言うコメントがあった。
「3B-p02:鄭(成蹊大)」BZO ナノ粒子導入TFA-MOD (Y, Gd)BCO 線材の作製について、超電導層の成長速度を速くすることで BZO ナノ粒子が微細化されて均一分散し、磁界中
Jcが向上する。
「3B-p03:江幡(成蹊大)」TFA-MOD (Y, Gd)BCO 線材の本焼成後の酸素アニールについて、YBCO 線材の最適アニール温度(500℃)よりも低温度で行うことでTc, Jcが向上する。
「3B-p04:元木(東大)」国際交流若手賞対象の発表であり、講演・質疑応答が英語で行われた。フッ素フリー MOD 法では欠陥の少ないYBCO 膜が得られることが知られているが、
塩素を導入することで、Ba2Cu3O4Cl2 粒子が生成すると共に、磁界中のJcが向上した。今後、粒子の微細化によってピン止めに寄与する有効断面積を増大させたい、とのことで
あった。「予稿にある様なミクロンオーダーの粒子はピンとして有効でないので、正確に粒径分布を測定する必要がある」、とのコメントが会場からあった。関連して座長から、「TFA-
MOD 法ではフッ素の存在によって YBCO 膜に様々な欠陥が導入されているので、塩素の場合にも積層欠陥などの欠陥が誘起されている可能性があるのではないか」、との
コメントがあった。


Y系線材 3B-p05-08 座長 吉田 隆

このセッションはY系線材の高特性化にむけた新規配向金属基板(3B-p05:岡井(兵庫県立大))及びTFA-MOD法を用いた高特性化(3B-p07~08:広長及び木村(昭和電線))などの
報告があった。特に「IRレーザーアシストCVD法を用いたYBa2Cu3O7-δ薄膜の高速成膜プロセスの開発(3B-p06:宮田 (SRL-ISTEC))は薄膜成長という観点から線材プロセスを
議論しているもので、REBCO線材の実用化に向けた問題の低コスト化や作製速度の向上に関する取組に関する研究である。YSZや半導体において、IRレーザーアシストCVD法は、
CVD法に加え赤外レーザーを同時照射することで成膜速度が飛躍的に向上する方法である。これをREBCO線材に応用可能であれば、成膜速度の向上、低コスト化につながると
期待される。これまでの報告で成長速度が58 μm/hにおいて1 MA/cm2を超える薄膜の作製が可能となっている。上記報告では、この成長速度を増加させ、更なる高速化及びIR
レーザーアシストのメカニズム、REBCO膜の成長に関しての知見を得ようというものであり、非常に興味深いものであった。


5月15日(水)
C会場 9:30-15:00

鉄系超伝導薄膜・線材 3C-a01-05 座長 一瀬 中

3C-a01 筑本(ISTEC)らは、今までにBaFe2(As,P)2薄膜の高Jc化のために、AsとPの組成の最適化を実施してきた。今回は、さらに、Baと(As,P),Feと(As,P)の組成の最適化を
試みた。その結果として、これらの組成に対して、Tcはほぼ同じだが、JcではFeは少し過剰,Baは少し不足する方が良いとの傾向が示された。
3C-a02 金(九大)らは、走査型SQUID顕微鏡を用いて、CaF2単結晶基板上に作製したFe11系薄膜内の量子化磁束の観測を試み、5 Kで量子化磁束の分布を明瞭に観測できる
ことを示した。
3C-a03 東川(九大)らは、CaF2単結晶基板上に作製したFe11系薄膜内のJcの分布を磁気顕微鏡法により測定した。単結晶基板上の膜においても、臨界電流の分布でドメインが
観測され、何らかのJcの阻害する欠陥が存在することが示された。
3C-a04 戸叶(NIMS)らは、Agシースを用いたい(Ba,K)Fe2As2 PIT線材のJc改善について報告した。ロール圧延した線材の熱処理後に,一軸圧縮を施して熱処理することに
より,Jcが約10倍の104A/cm2以上に向上した。一軸圧縮でJcが飛躍的に向上した要因として,ロール圧延では電流が流れる方向に垂直にクラックが入るが、一軸圧縮では、
電流の流れる方向に平行にクラックが入り,クラックの入る方向が変わったことが主な要因と考えられる。
3C-a05 藤岡(NIMS)らは、今までにSmFeAsO1-xFxの特性向上のために、結晶粒の周りに生成する超電導電流を阻害する相を除去するために各種金属を添加してきた。今回、
低温焼成することで,不純物の生成が抑制されて結晶粒間の結合が改善されることを示した。また、徐冷を行い試料にFを十分に供給することで,Tconsetが58.1 Kまで向上した。


MgB2バルク 3C-a06-10 座長 松本 明善

3C-a06では鉄道総研の富田氏よりMgB2バルク磁石の開発として報告があった。MgB2バルクは他のバルクから考えると均質なものが歩留まりよくできるために様々な応用が
考えられる。今回は100 mmφのバルクが作製でき、3.5 T@13.5 Kのものができていることを報告した。
3C-a07では東大の岩瀬氏よりMgB2バルク体への不純物添加の効果について報告があった。今回、CaCO3を1%添加することによって無添加に比べて高いトラップ磁場
>3 T@5 Kを達成したことを報告した。
3C-a08では東大の山本氏よりバルク体の径を変えたときのトラップ磁場依存性についての報告があった。径が大きくなるにつれてトラップ磁場は大きくなるが、ビーンモデル
から外れている。これは高磁場下でのJc低下が影響しているものと考えられる。
3C-a09では岩手大学の吉田氏よりHIP法で作製したMgB2バルクの径方向依存性について報告があった。常圧で作製したものより遙かに高い充填率(96%以上)をもっている
MgB2バルクが作製できているが、径方向ではJc一定のビーンモデルから外れる。これは径方向のJcが磁場に対して急激に劣化することが影響していることを示した。
3C-a10では岩手大学の氏家氏より2枚重ねをしたMg-RLI法で作製したバルク体の着磁特性についての報告があった。2枚重ねによって温度分布が出ており、それによる
着時特性について報告があった。


ITER 3C-p01-07 座長 柳 長門

ITER のマグネットと導体関連について7件の発表があった。
3C-p01 名原(JAEA): 中心ソレノイド(CS)コイル用の導体については、スイスのSULTAN装置を用いた導体試験において繰り返し励磁に伴う臨界電流の低下問題が観測され
たが、前回の学会で撚線ピッチ長を従来よりも短くすることで劇的な解決策が見いだされたことが報告された。これにもとづき日本製の導体サンプル4本が試験され、いずれも
良好な結果を確認するとともに、磁場13 Tで1 K以上の温度マージンを有することも外挿により示された。
3C-p02 高橋(JAEA): 上記の短い撚線ピッチ長への変更に伴い、CS 導体を製造する際に大きなコンパクションがかかるとともに小さいボイド率となり、撚線素線にダメージが
加わる可能性が高くなった。そこで、試作された撚線で凹み具合を観察したところ、Nb3Sn素線では0.1 mm以下となっており、銅素線がクッションとして働いていることがわかった。
3C-p03 尾関(JAEA):CS 導体に用いるJK2LBジャケットの初期欠陥をフェーズドアレイ方式の超音波探傷で検出する方法について続報があった。人工欠陥を用いたサンプル
試験の結果、内表面の欠陥については垂直探傷法で全て有効に探知できるが、外表面の欠陥のうち周方向の疵については表面波による観測でノイズの分離が難しく、外観
検査の方が好ましいとわかった。
3C-p04 小泉(JAEA):トロイダル磁場(TF)コイルについては日本が9個の製作を予定しており、現在は調達第二段階として最終R&Dを行っている。特に、ラジアルプレートは
その大きさに関わらず許容公差0.02%以内で製作する必要がある。これは巻線に伴う公差0.01%と熱処理の公差0.01%を合わせたものであり、極めて厳しい寸法管理が求め
られる。そこで、巻線導体の熱処理後に追加の機械加工を入れる余地を残すため、製作時に余肉を残すことも検討されている。
3C-p05 井口(JAEA): TFコイルの構造物については日本が全数を調達する予定である。こちらも1/8000という極めて厳しい製作公差が求められており、セグメント間の溶接に
伴う変形量の把握が重要な課題である。検証試験の結果、溶接後に必要となる機械加工のための余肉を当初の想定よりも低減できる見通しが得られた。
3C-p06 Hong(代理発表:井口、JAEA):日本が全数を調達するTFコイルの構造物の実製作にあたっては韓国のHyundai社も担当する予定となっている。上記と同様にセグメント
間の溶接試作が行われた結果、日本メーカーと同等の製作精度を達成できることが確かめられた。
3C-p07 高野(JAEA):上述のとおり厳しい寸法精度を求められるラジアルプレートについて試作が行われている。高窒素含有率の完全オーステナイト系材料を用いるため
セグメント間の溶接は難しいが、レーザビーム溶接とTIG溶接を併用することで必要な寸法公差を満たすことが可能と実証された。


5月15日(水)
D会場 9:45-11:45

磁気分離 3D-a01-04 座長 古瀬 充穂

3D-a01:岩田(神戸大) 提案しているMHDの原理を利用した海水中の油分を分離する装置について、海水中のイオンの流れまで考慮した数値解析モデルを構築し、流路中の
イオン濃度、電流、海水の流れをシミュレートした。
3D-a02:三島(大阪大) 酸素を加圧溶解させたパーフルオロヘキサンの磁化率が、溶存酸素濃度(酸素加圧したときの圧力)でコントロールできることを利用し、磁気アルキメデス
効果で食品や医薬品系有価物を分離しようという独自性の高い研究。実験により実際に原理通り分離ができることを報告。分離のスピードは対象物の大きさに依存し、小さいもの
については時間がかかるが、対象となる有価物では十分許容範囲の時間とのことであった。
3D-a03:野村(大阪大) 磁気分離技術の土壌除染への応用。放射性セシウムが取り込まれている粘土鉱物2種のうち、セシウムが強く吸着されている2:1型の粘土鉱物だけ分離
して濃縮することにより、汚染土壌の減容化を図る。粘土鉱物の磁化率の差により、HTSバルクの磁界と磁性フィルターを使って高勾配磁気分離を行った実験結果が報告された。
除染への磁気分離技術の適用に関し、放射線による超電導マグネットの劣化に関する議論があった。
3D-a04:酒井(宇都宮大) 磁気分離技術の土壌除染への応用。酒井らが提案する水浄化技術の磁化活性汚泥法において、汚泥フロックに捕捉されているセシウムを含む粘土
物質を磁気分離で取り出し、放射性汚泥廃棄物の減量化を図る。実験の様子が報告された。質疑では大学付近の汚染土壌を用いた実験のエピソードが紹介され、身近な問題で
あることを再認識した。


医療用磁気分離 3D-a05-07 座長 酒井 保蔵

3D-a07~09:磁気分離セッションの後半にあたる本セッションでは、3件の発表があった。いずれも、関東経産局 戦略的基盤技術高度化支援事業として推進された、交流消磁
システムを組込んだ冷凍機冷却型超電導マグネットの開発と、それを医療分野のモノクロナール抗体 の磁気ビーズを用いた分離・精製に応用するための基礎研究に関する成果
が報告された。研究グループから上岡が装置設計と製作、我妻がマグネッ ト設 計と消磁システム、植田が磁気ビーズの分離特性についてそれぞれ発表した。
質疑応答では、超電導HGMSの必要性について、3 Tの磁場が最適か、消磁プロセスの効果や問題点、磁気ビーズの凝集などについて質問があ り、磁気ビーズはナノサイズで、
高効率分離のため大きな磁場と磁気勾配が必要なこと、磁場強度の最適化については今後の課題であること、励磁150秒、 消磁数秒で繰り返し測定が可能であること、実際の
医薬用への応用研究はこれからであることなど議論された。超電導HGMSシステムが気軽に使えるような大きさやコストになることは超電導磁気分離技術の発展のカギとなると
考えられる。本研究の成果か ら、 実用化への次の一歩が期待される。